Dead sleep

帰りの終電車のこと。
座席でうたた寝を決め込んでいた男が、座席から足を投げ出した。黒の、結構もののよさそうなスーツを着ていた、がっしりとした体つきのその男は、背格好と寝相が相まってやたらと目立つ。…ていのいい晒し者かもしれない。
最初のうちは靴を脱いだだけだったが、時間が進むにつれ、足を投げ出しつつ腰が座席背もたれから離れてゆく。程なく、座席から滑り落ちて目を覚ます…かと思いきや、車内を横にふさぐ形で座席を枕に寝息を立てる。


観衆が入れ替わりつつも列車は淡々と進む。
…気にはなったが、最寄り駅で降りた。その頃になっても男は全く目を覚ます気配がない。このまま本当に終点の山奥まで行ってしまうのは確実と予想するが、そこに至るまでに床に寝転がるのは時間の問題かもしれない。