潜入(前編)

唐突な話になるが、私は本というものをほとんど「読まない」。たまに手に取る本はあっても大半が卒業研究に関連したものばかりで、しかも読むのではなく「ひいている」。
その一方、新聞はよく読む。1日1回、株価の所を除いて一通り読まないと落ち着かない。最近は各地のホームページも巡回するようになった。
てな具合なもんだから、脳味噌の中には「文才」というものが見あたらない。たまにこんなのを書くが、それは雑文。


通っているのは「工学部情報工学科」で、高校時代から数式や物理公式漬け(?)なもんだから、いつのまにか人文系分野は大気圏外と化している。そういえば、教養のときに文学・芸術といった人文系科目は全くとっていなかったような・・・・
前置きはこの辺で。
本日の主なキャスト
・案内役の「お姉さん」。今春大学を卒業。
・我輩&友人知人、あわせて4人。
・「やかん男」。上の4人の知人でもある。
さて、”Milky Blue”から約1週間後の11月頭。ひょんな事から仲間内で連れ立って松本へ行くことになった。大祭見物・・・である。
長野県内各地にキャンパスが散在しているとかいう某大学では、大祭もキャンパスごとに行われている。”Milky Blue”のドタバタ劇が繰り広げられたのは、長野市内にあるキャンパス。(長野市内にはもう一つ別の場所にキャンパスがあり、大祭も別々に行われている)でもって今回出かけるのは松本市内にあるキャンパスである。
供の者達と4人で電車に揺られて約1時間半、松本についた。到着時刻が早すぎたとみえる。まだ露店は開いていなかった。
時間つぶしを兼ねてキャンパス内を散策。そのうちぼちぼちと展示や露店が開き始める。その中のとある展示(絵画)に入ってそこで「とあるお姉さん」と合流。
今回の話の「案内役」ともいえるそのお姉さん、私を除く一行の面々の古くからの知人らしい。人文学部の出だったか。
ようやく開いた露店で腹ごしらえをしていると、また一人やってきた。呼んでもいないのだが・・・。ちょっとイっちゃっているジャガイモ頭の「やかん男」。これで役者はそろった。
腹ごしらえを終えたところで、本日のメインイベント「人文学部潜入」が始まる。計画はしていなかったが。
一行の内、案内役でもあるお姉さんを除いて人文学部の構内入るのは初めてである。同じ大学の中にありながら、いったい何をやっているのだろう?・・・といった疑問を持つことはあまりない。私もだが。
が、そこはそれ。案内役の「お姉さん」の手引きにより、とある研究室で「心理学」の一端をわかりやすく体感させてもらえることになった。
準備中の飲み屋をすり抜け、現場に入る。と、そこには・・・・・
・パソコン3台(かなり年季の入った98)
・輪投げセット
・双眼鏡のような箱メガネ
・円盤のついた工作用ちびモーター
・巨大な福引きセットのようなもの
があった。
まずは「輪投げ」。といっても、ただの輪投げであるはずがなく、視界が左右反転するメガネをかけて行うものだ。過去に行われた実験データでは、そのメガネをかけると慣れるまでの間(普通は4~5日かかるらしい)感覚が狂ってしまうとのこと。
輪がいくらか入れば他の有料の出し物も無料で見ることができるという話に俄然張り切る自分(笑)。
はじめの2~3投目は全く見当違いの所に輪が飛んでいったのだが、「あまのじゃく型思考回路」をフルに働かせて、わざと的からはずれるように投げてやると意外にもよく入る。視界が左右反転しているからねぇ。
展示担当の人や、一行の人たちの驚きの声と共に輪投げは終わった。14~5回くらいは投げたと思うが、半分くらい的に入っていた。研究室の人の話では、視界が反転するメガネをかけて輪投げをすると、初めての人の場合、たいがい1~2投くらいまぐれ当たりがあるだけという。この好記録により、有料アトラクション無料化の権利をいただいた。
次は「びっくりトイレ」。巨大な福引きセットのような箱があり、その中にはブランコ風の椅子があって、どちらも自由に回転できる。で、箱の中にはトイレ風の絵が書いてある。
ちょこちょこっと説明を聞き、「びっくりトイレ」の実演開始。まずは「やかん男」が乗り込み、箱(トイレ)が回り出す。すると・・・・・・
「うわぁぁァぁァぁァァぁ やめてくれぇヱぇェぇぇぇ」
絶叫する様をみて、研究室の人たちがニヤリ。
リアクションを楽しんだところで次は自分の番。早速中に入り、箱を回してもらった。はじめは外の箱が回っているとはっきりわかっていたのだが、数秒後、箱ではなく自分が回っているような感じがしてきた。先ほどの絶叫は、これが原因らしい。でも箱の中にいる人間は全く回転していないのだ。
回転している箱の中で、自らぐるぐる回っているかのような感覚を味わう自分。TVでやっていた、スペースシャトル内での光景が現実に起こっているような気がして無性に楽しい。そしていつもの悪のりで
「逆回転はできますか?」
2つ返事でOKが出て、トイレが逆回転を始めた。しばらくすると、自分が回っている様な、先ほどの感覚がやってきた。ただし、回転方向はさきほどとは逆。色々聞いてみたのだが、このようなことが起こるのは「思いこみ」「錯覚」とよく似たものらしい。そのようなもので方向・位置感覚がいとも簡単に狂ってしまうのだそうだ。
いい加減目が回りかけてきたので、箱を止めてもらい、外へ出る。見事にこけた。
運動会などでおなじみの「宇宙遊泳」をやった直後の感覚によく似ている。このあと数分、前後の感覚が全くつかめず前へ後ろへつんのめったり転びかけたりを繰り返すことになる。(つづく)
Rec:1998-12-3/Mix:1998-12-7