コヒーレント帯域幅

フェージングには、「フラットフェージング」「周波数選択性フェージング」の2種類がある。通信を行う際、あまり帯域幅を広くとると周波数選択性フェージングの影響を受けやすくなる。ここで、周波数選択性フェージングとフラットフェージングの境目を知る大まかな目安となるものに「コヒーレント帯域幅」というのがある。仮に、フェージングが2つの搬送波によるものとしたばあい、フェージングの特性を表した「フェージングフィルター」の山と山の間隔は「c/r(Hz)」となる。rは2つの搬送波の経路差, c は電波の速さである。


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2つの波の経路差(r)が波長(λ)の整数倍になるごとに合成波の振幅は最大となる(高校物理参照)が、電波の周波数(f)・波長(λ)・速度(c)の間には「λ = r = c / f」の関係があるので、r, cを固定すると「fがc/rの整数倍になるときに振幅が最大」になる。一つ隣の山へ移る間に、合成波の位相は1回転するので、さらに変調・復調方式毎の「位相の許容誤差(例えばQPSKならば45度)」を掛け合わせると、「コヒーレント帯域幅」が出てくる。信号をそのままの位相で送ることのできる帯域幅の限度(目安)といったところだ。コヒーレント帯域幅即ち「c/r × θ/360 → cθ/360r」である。
信号の帯域幅がコヒーレント帯域幅に近づくあたりから、信号は周波数選択性フェージングの影響を徐々に受けるようになる。
ところが、スペクトル拡散を使うことで「コヒーレント帯域幅」を広げることが可能になる。拡散に使う符号の自己相関関数を見てみると、ごく一瞬を除いてほとんど0となるようになっている。言い換えると、一定時間(長くても拡散符号のチップ幅程度)以上遅れた信号は無視してもよいことになる。
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と言うわけで、搬送波の経路差がc×Tc(Tcは符号のチップ幅)よりも長い場合はフェージングが起こらない…と見なせるため、コヒーレント帯域幅は「c/(c×Tc) × θ/360 → θ/360Tc」になる。うれしいことに、この効果は直接拡散・周波数ホッピングのどちらの方式でも得られる。