永遠への片道切符(川口・前編)

手元に、大学の頃以来の知人の結婚披露パーティーの招待切符がある。
招待状を受け取ったときから、何かありそうな予感がしていた。招待状からしてただものではなかった。切符だった。
久しぶりの郵便物がポストに入っていたのは10月の始めになる。群青色と赤の2色のラインが引かれた封筒の差出人は「あさま4号友の会」。イベントの名称は「Wedding party train」。はて…?
封を切って開くと、謎が解けた。かのお披露目パーティーの案内だった。


私の記憶が確かならば、「あさま4号の会」は同期会…のような集まりのはずだ。私とは違う世代の集まりなので、詳細は知らないが、封筒にあった2色のラインは新幹線「あさま」そのものだ。
案内には切符のような物が同封されており、デザインはJRの切符そのもの。案内文の節々にも出発、改札、全席禁煙といった、列車を連想させる言い回しがちりばめられている。旦那さんと幹事はともに筋金入りの鉄道ファンだった。笑いが止まらない。
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嫁さん(鉄道ファンではない)とも面識があるのだが、そのせいか笑いには苦みも少々混じっていた。
今回は諏訪生まれの旦那と名古屋の嫁の組み合わせ。で、出会ったのは長野。しかし会場は川口のビール園。どういうつながりがあるのだろうか。それ以前にに二人とも酒は強くない。早速宿題が出た、といったところか。
ともあれ、出る。
[差し入れ]
列車を2回程乗り継ぎ、川口に到着。駅前のデッキで顔見知り御一行様と合流。
移動中にメール等で打ち合わせていたのだが、一同で何か差し入れをすることにした。あとは品物を選ぶだけ。
嫁さんが「猫娘」と呼ばれていたこともあり、猫耳と鼻、髭をセットにして笑いを取る、という案もあったが、結局赤白のヌーヴォーに落ち着く。新婚夫婦に新酒、時節柄悪くはあるまい。私の趣味…単なる酒好きのようなものと突っ込まれた以外は至って無難な線か。
駅のデッキを降りてデパートに入るとすぐに、特設コーナーが設けられており、一同試飲の上決定。ボジョレーは赤のみだが、白のヌーヴォーは存在する。流石はデパ地下、いい品揃えだ。
[会場]
買ったばかりのボトル2本抱え、談笑しつつ会場へ向かう。
川口駅から10分程歩いたところに会場のビール園はあった。係に予約名を告げ、奥へ通される。
会場は、ブルートレインの客車を再利用して作られた部屋だった。そういうことか。流石に中は食堂車風ではなく、普通テーブルが並んでいた。会場には夫婦の幼少時代からの写真が貼られている。これとは別に、1ヶ月程前に親族のみで行われた挙式のアルバムと、新婚旅行の模様を集めたアルバムが回覧されている。
さて、会場は「座席指定」となっている。受付を済ませると「指定券」が渡される。これも招待状同様、JRの切符と同じデザインになっている。文面も切符を連想させる言い回しが並ぶ。裏面が磁気になっていなかったが、それはご愛敬、ということにしておこう。
暫くして、車掌に扮した司会が入る。流石に制服…ではなく、普通のスーツに手製の帽子。
しかし新郎新婦の入場迄の間に場内は数発喰らうことになる。
[新郎新婦入場]
司会から、入場に先立ち案内が入る。式の進行を列車の進行に見立て、まもなく「発車」との案内だ。さすがにこの日ばかりは携帯電話もカメラ付きであれば「バシバシお撮り下さい」となっていた。
そして入場…なのだが、入場曲がとんでもないサウンドだった。入場曲代わりに流れたのは電車のドア開閉チャイムに汽笛。会場は笑いの渦に包まれた。続いて夫婦が登場。しかもコスプレときた。
旦那がJRの制服に身を包み、嫁さんが社内販売の売り子に扮して入場。これは予想を越えていた。よもや毎朝見かけるJRの制服とは。しかも、旦那さんが場内を回る間に切符に鋏をを入れている。車内の検札そのもの。サウンド共々不覚にも笑いのツボに直撃したらしく、大笑いしてしまった。嫁さん、鉄道ファンではないがよくやっている。よくぞここまで。
それにしてもあの制服、何処から調達してきたのだろうか。はたまた作ったのだろうか。自宅の隣に撮影用のパトカーがある位だ。探せばどこかに撮影用の衣装として売っているかもしれない。
…弟さんからの借り物だったという。
のっけからやってくれるぜ。(つづく)